フィルムはHDRの夢を見るか?

 フィルムが写真のメインストリームでなくなって久しい今日この頃。しかし滅びることなく生産されています。ということは使う人がいる。ネットの大海を徘徊してもまだまだ愛好家は多そうです。
 私もフィルムで撮影するたちなんですけど、共有の手段としてプリントと同じくらいデジタイズの比重が大きいと思います。遠く離れている家族・友人への送信やSNS投稿に便利です。
 とは言ってもデジタルカメラであれば不要な手間(化学現像→デジタイズ・色彩現像)をかけているので時間がかかるのは当たり前。むしろそういった面さえ数寄者に刺さっているかもしれない。

 うーん。なにかこれまでにないフィルムの表現手段ってないんだろうか?デジタル全盛の時代にあってフィルムが手に入れられる新しいマチエールが。
 そういう逡巡をしていて思いついたのが「フィルムをHDRデジタイズする」。それもsRGBやAdobeRGBの中で擬似的にやるのではなくて、PQカーブを利用して。

 何が得られるのか?
 1つ目はリバーサルフィルム(ポジフィルム)の「透過光を通した直接鑑賞」をHDRディスプレイを通して擬似体験できること。
 2つ目はそれと同じことがネガフィルムでも行えること。アナログでは紙プリントで行っていた現像をデジタルデータ上で反転現像することで、ネガからポジ画像を得てHDRディスプレイ上に再現する。これはネガフィルム単体では不可能だった体験です。
 3つ目はデジタルカメラで記録した画像(映像)とHDR空間で混合・統合すること。現状ではほとんどの場合sRGBでデジタイズされた画像をSDR空間(Rec709/BT1886など)で利用しています。HDR化によってVLOGなどでの表現の幅が広がるはずです。
 大きく思いつくのは上記3点です。

 互換性も一応考えておく必要があるので、HDR化と同時にこれまでのSDR環境と親和的であるか気を配るべきでしょう。
 解決策の大部分は「HDRバージョンとSDRバージョンを作成する」力技になります。必要な方を作ればいいのです。家族・友人がHDR環境を有しているのであればHDRバージョンを作ればよく、なければSDRバージョンを作ればいい。
 写真プリント(紙プリント)はSDR環境を前提に構築されているので、SDRバージョン(ほとんどsRGB、まれにAdobeRGB。求められればCMYK)で入稿を行うことになります。

 難しいのはSNS投稿で、HDR(PQ)はSDR(Rec709/BT1886など)と表示に関する互換性がないため、メタデータと色空間変換を駆使する必要があります。色々と試してみて、YouTubeが自動変換1とメタデータ重畳の両方に対応しているようです。色空間変換用のLUTはデフォルトで用意されていますが自作のものも利用できます。少し面倒ですが、これであればHDRバージョンを作成してしまえば、あとは多少の時間と引き換えにYouTubeのサーバが働いてくれます。2
 再生に関してもHDRに対応していればHDRストリームが自動で選択されますし、SDRにのみ対応していればSDRストリームが選択されます。Netflixなどでも再生環境が対応していれば「Dolby Vision」の表示がされるようになっていて、ブラウザやアプリが判定を行っているようです。

 試しに動画を作ってみたので観ていただけると幸いです。

 どうでしょうか?HDR再生されていると見た目にも違うはずですが、下の画像のように「HDR」と明確に表示されます。

 作成の際に気を配った(こだわった)ポイントは以下の4点です。
 ・HDR版のみ作成(エンコード)し、SDR版はLUT変換に任せる。(作業の省力化1)
 ・SDR版とHDR版で大きく印象が異ならないようにする。(作品の同一性維持)
 ・再現性のあるワークフローを構築する。(作業の省力化2)
 ・フィルムだけでなくデジタルカメラで撮影した画像(RAW)も併存させる。(柔軟性の確保)
 もちろんLog撮影した動画素材と併存させることも可能です。こういった遊び方を通して、VLOGや作品作りでフィルムのHDRデジタイズが広がると面白いなと思います。

  1. FFmpegが使用されているとのこと。しかし具体的なコマンドは分かりません。 ↩︎
  2. といっても、HDR→SDR変換よりもYouTubeがHDRのストリーム用データとして生成するVP9(・AV1もある?)への変換の方がはるかに時間を要します。 ↩︎

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