カラーマネジメントとカラーパイプライン

 写真や動画の制作で気をつけていることはなんですか?企画内容(誰が何する?)、撮影(カメラ・レンズ・コーデック・メモリーカード・バッテリー)、音声(マイク・コーデック・バッテリー)、編集(ソフト・パソコン・ストレージ)、、、たくさんありますね。

 考慮することが多すぎて、なかにはあんまり気に留められていない要素もあるだろうと思っていて、特にカラーマネジメントはその筆頭格かもしれません。sRGB?AdobeRGB?ICCプロファイル?BT.709?BT.1886?BT.2020??LOG?LUT?なんやねんそれ、男も女も黙って撮って出しやろがい。

 たしかにそうなんです。よく言えば標準化の勝利。
 けれど、写真も動画も簡単にRAW撮影・RAW編集ができる環境が整っている2024年のいま、自分がいったい「どの色で撮影し、どの色で編集し、どの色で出力するのか」を把握することに大きな価値があると思うのです。自分の色を他者にありうべき姿で届けるために。

 だからカラーマネジメント=色の管理をしましょうと、多くのWEBサイトで目がチカチカするくらい書き残されているんだと思います。でもたくさんの著者が伝えたいことは根本的には同じことであるはずなのに、私の理解が及ばなくてずいぶんとたくさん読んだ気がします。キャリブレーションやら各種設定も少なからず実行してきました。

 そうやって実践検討することでカラーマネジメント(色の管理)を統一的に俯瞰する視点を持てるようになった気がします。それが「カラーパイプラインを意識すること」です。なんてったってNETFLIXも推奨してる。

 パイプラインと言われて一番聞き馴染みがあるのは石油・天然ガスの輸送管だろうと思います。見たことないけど。要は「ある場所から別の場所へ物質を運ぶ経路」です。
 このイメージをカラーマネジメントに当てはめてみると、「取得した色彩情報を伝達し、目的に沿った再現をすること」となります。現実世界の色彩情報は特定範囲の電磁波(可視光線)であり、記録・再現するために各種規格が策定されてきました。その規格をパイプラインになぞらえて、撮影から出力まで1本の管を通すのです。

 具体的に考えてみましょう。
 まず現実世界の色彩情報をカメラでRAWデータとして取得します。このRAWデータは公開された規格(DNG)と各カメラメーカー毎の独自規格(RAF、NEF、CR2、ARW、BRAW 、R3Dなど)が存在します。
 次にこの色彩情報を統一的に演算処理するために別の情報へ変換(解釈)します。ProPhotoRGBやACESが有名でしょうか。さらに、処理結果をディスプレイ表示や画像データとして生成するための変換(解釈)が行われます。お馴染みのsRGBやBT.709(Rec709)です。

 処理フローを具体的な規格を用いて表現すると、例えば次のようになります。

 (画像をクリックすると拡大)

 これがカラーパイプラインの一例です。私たちが色を知覚するのはsRGB(ディスプレイ表示)またはJapan Color 2011 coated(プリント)部分のみですが、RAWデータからの変換経路を意識することで能動的に色彩情報を扱うことができるようになります。また最終地点=ディスプレイ表示(あるいはプリント)を明確に想定するからこそ、観察条件を含むキャリブレーション(較正)の必然性とICCプロファイルなどの接続用メタデータの重要性が実感できるのです。

 そしてもう1つ、カラーパイプラインを繋げる(→部分)ために重要な視点を意識する必要があって、それは「色彩情報の構成要素」です。色彩規格のアウトラインと言ってもいい。
 具体的には三原色点(Color Primaries)、応答特性(Transfer FunctionあるいはGamma Curve)、白色点(White Point)の3つです。この3要素をいかに繋ぐか。カラーマネジメントの核心はここにあると断言できます。
 そのためには各規格における3要素の定義と変換の担い手を知る必要があります。先に挙げたカラーパイプラインを改めて考えます。

 (画像をクリックすると拡大)

 お疲れさまでした。このようにパイプラインを通し、その中で編集処理を行うことで、撮影で記録した光・色彩情報を意図した色彩表現として他者へ提示することができます。
 この考え方で臨めば多くの応用ができると考えています。写真と動画の垣根がなくなって久しい今日この頃、なかば強制されているBT.709・BT.1886(あるいはsRGBガンマ≒2.2)の縛りを超えて、HDRを含めた新たな地平に挑戦できるはずです。

 カラーマネジメントとはカラーパイプラインの制御である。
 ではまた!


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